銀行マンの常識?取引先への融資を検討する際の融資稟議書とは?

銀行・金融情報

銀行が取引先に対して融資を検討する時に、融資稟議書というものが必要となります。
融資稟議書とは、簡単に言えば、銀行の担当者が決裁者に対して融資実行の承認を取り付けるための書類です。融資稟議書の内容をもとに審査が行われ、承認になると融資を実行することができます。
取引先や資金使途、金額の規模に限らず、どのような融資でも稟議書の作成は必須であり、いつでも見直せるよう一定期間保管されています。
決裁者を納得させる融資稟議書には、どのような内容が記載されているのでしょうか?

銀行内での融資検討フロー

融資の決裁者は融資を受ける取引先の格付や単体融資額、グループ全体の融資額等さまざまな要因により異なります。
格付が良い、融資額が小さい場合は、各支店の支店長が決裁者となりますが、格付が悪い、融資額が大きい場合は本部の審査部や役員、頭取が決裁者となります。稟議の回付ルート例を記載しておきます。

 例①:支店長決済の場合
    取引先担当者 → 融資役席 → マネージャー職(副支店長・次長等) 
    → 支店長
 例②:審査部決済の場合
    取引先担当者 → 融資役席 → マネージャー職(副支店長・次長等) 
    → 支店長 → 審査部担当者 → 審査部マネージャー職(部長等)
 例③:頭取決済の場合
    取引先担当者 → 融資役席 → マネージャー職(副支店長・次長等) 
    → 支店長 → 審査部担当者 → 審査部マネージャー職(部長等) 
    → 役員 → 頭取

    ※細かくは各銀行のルール、支店の人員状況等により異なります。

このように、本部や頭取決裁となると、決裁者までの稟議書回付に携わる人数が増えるので、稟議が証人となるまでに時間がかかってしまいます。
また、支店としては取引先のため、支店業績のために融資を実行したいという気持ちを強く持っていても、本部は融資の回収リスクを考えて消極的な考えを持っていることもあります。
取引先に寄り添い、このような状況を稟議書で打破するのが担当者のやりがいでもあります。

融資稟議書に書かれる内容

融資稟議書は、融資の妥当性について検証し、そのうえで融資実行の承諾を決裁者から得るための資料です。
金融機関によっても内容は違うと思いますが、一般的に必要になる内容は、

 ①融資額
 ②返済期間
 ③資金使途
 ④融資形態(証書貸付・手形貸付・当座貸越など)
 ⑤金利(表面金利・変動の場合基準となるベース金利など)
 ⑥返済方法(元利均等返済・元金均等返済・期日一括返済)
 ⑦返済に関するルール(返済日・返済日が休日の場合前後どちらにするか等)
 ⑧保全(担保・保証人・保証協会、保証会社の利用)
 ⑨融資に対する担当者の意見

などになるかと思います。
以下で具体的に説明していきます。

①融資額

融資額が企業規模や資金使途に対して過大でないかというのは必ずチェックされます。
銀行は「必要のない資金は融資しない」というのが前提にあります。ただし、取引先としては、年内に必要となる資金をまとめて調達する年度資金、一時的な資金不足のために調達するスポットの運転資金等個別の特殊要因もありますから、そのような場合は融資稟議書で具体的に説明する必要があります。

②融資期間

取引先の状況や資金使途(運転資金か設備資金か)、担保の有無等により適切な融資期間をチェックします。例えば、固定資産(車や不動産)に対する融資であれば、法定耐用年数を参考に期間を算出します。

③資金使途の妥当性(運転資金・設備資金など)

銀行としては、必要な資金にしか融資はできないので、資金使途については必ずチェックします。

たとえば、運転資金として融資を希望しているのに、実際の運転資金より多い金額は原則融資できません。
決算書から経常運転資金(売掛債権+在庫-買掛債務)を算出し、この範囲で融資を行います。ただし、各取引先毎に特殊な要因もありますので、取引先に寄り添う傾向にある地方銀行や信用金庫であれは個別に検討することもあります。

また、設備投資の場合は設備購入資金より大きな金額を融資することはできません。
そのため、設備投資の場合は、そのため実際に購入予定の設備の見積書・カタログ等を取引先から徴求し、資金の妥当性検証資料として融資稟議書に添付します。

④融資形態

融資といっても手形貸付・証書貸付・当座貸越などさまざまな種類があります。
一般的には長期間の融資には証書貸付、短期間の融資には手形貸付・当座貸越を利用することが多いです。なお、証書貸付、手形貸付は都度の融資ですが、当座貸越は融資の限度額を設定し、その中であれば好きな時に好きな金額の融資を受けられるという融資形態となります。

⑤金利

銀行の収益の核である金利についても厳しいチェックが入ります。一般的には、格付が良い、期間が短い、保全が効いているほど低金利、反対の場合に高金利を適用します。

また、固定金利なのか変動金利なのか、固定の場合は一定期間なのか全期間なのか、変動金利の場合はベースの金利指標(短期プライムレート・日本円TIBOR等)は何を利用するのか等細かく条件を決める必要があります。

取引先からはできるだけ安い金利をお願いされると思いますが、マイナス金利解除等現在の金利情勢、取引先の状況、融資の内容等から総合的に判断して金利を設定する必要があります。

⑥返済方法

返済方法には、一定期間で分割して返済する「約定返済」と返済期限にすべてを返済する「一括返済」があります。

また、約定返済でも、元本と金利込みで毎月同額を返済する元利均等返済と、融資額を分割し利息を上乗せして返済する元金均等返済があります。

元利均等法返済は、毎月の返済額が同じなので資金繰りが読みやすいというのがメリットです。

元金均等返済は、借入当初は返済負担が大きくなりますが、総利息額の負担は少なくなります。

⑦返済に関するルール

返済日をいつにするか、返済日が休日の場合の返済は前営業日か翌営業日か、利息は前払か後払か等細かなルールについても融資稟議書に記載します。

⑧保全

保全とは銀行の考え方の一つであり、融資を安全に回収するためにどのようにカバーするかというものです。不動産を担保に取ったり、信用保証協会の利用により保全を確保します。
保全があれば銀行は絶対に融資を回収できるので、基本的には保全でカバーできる金額での融資を検討します。ただし、取引先の状況、関係性、案件の内容次第では裸与信があったとしても融資対応するケースもあります。

一方で、担保に差し入れる物件がない場合や、業績が不安定な場合等は信用保証協会の保証を付けることが多いです。信用保証協会の保証を付けると、債務者が債務不履行となった場合に保証協会が銀行に対して保証してくれます(現在は80%保証が主)。

そのため、銀行としてもプロパーで融資を行うより債務不履行時に残債を回収できなくなるリスクが少なくなるため、信用保証協会の保証を付けた方が融資の審査が通りやすくなるのです。

信用保証協会の保証を使って融資をする際には、信用保証協会への申請を行います。信用保証協会で保証の審査が下りてから銀行内で融資の審査をするため、信用保証協会の保証が下りた証明書も融資稟議書に添付します。

⑨融資に対する担当者の意見

最後に、融資の稟議書には担当者が案件に対する意見を書きます。

業歴、自己資本比率などで企業経営の盤石さをアピールしたり、融資に対する返済原資や保全について書いたりなどさまざまな視点から融資の妥当性を書きます。

業績に不安がある企業や、融資額大きい場合などは担当者の意見が重要になります。

上記のほか、案件ごとに説明が必要な情報を記載することとなります。

融資稟議書の承認を取り付けるために必要なこと

繰り返しになりますが、融資稟議書を通すためには融資の妥当性を決裁者に認めてもらう必要があります。銀行としては融資した金額をきちんと全額回収したいと思っているので、決裁者は基本的にマイナスな目線で稟議書を確認します。

ただし、融資稟議書の承認を取り付ける最後の砦は、役員でも支店長でもなく取引先の担当者です。なぜなら、その取引先のことは担当者が一番理解しているからです。事業の将来性、社長の熱い思い等担当者じゃなければわからないこともたくさんあります。

難しい案件でも上司や決裁者と協議の上、稟議書の承認を取り付けることは、銀行員として強くやりがいを感じるタイミングだと思います。

まとめ

融資稟議書は融資の条件や融資の妥当性などを記載した資料であり、決裁者はその資料を確認して融資の可否を判断します。

ポイントをおさえ、整った融資稟議書を作成できるのは、銀行で営業活動を行っていくには必須の能力となります。今回のブログが、銀行員の皆さんの知識の習得、整理の一助となれば幸いです。

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